ハートビートナイター(吉田幹太)

 桜花賞のゴール前は久々に力が入った。五分五分かと思ったゴール前も、固定カメラの映像でひと安心。それにしても、あとからリプレイを見れば見るほどよく勝ったな~と。

 これで大儲けと行けばよかったのだけど、どうも馬券の買い方がうまくない。何とか浮いた程度で、もうひとつ気持ちがスッキリとしない。その晩は友人たちと小さな洋食屋で散々、食べて、呑んで、自分の不甲斐なさを散々嘆いたあとに、なぜか、しゃぶしゃぶ屋にハシゴすることに。その時は酔っているから食えたのだけど、当然のことのように、寝ようとした頃から胸焼けがして、胃までスッキリとしなくなった。

 そんなこんなで眠りは浅く、酒も残っていたせいか翌日は昼までゴロゴロ。起きてみても気持ちも体も相変わらずスッキリとしない。このままではいかん。なにかいい手はないだろうか……ふと部屋に貼ってある南関東のカレンダーに目が止まった。今日から船橋競馬、しかも星マークがついているということはナイター。船橋ハートビートナイター。これだ、これしかない。

 まずは体をスッキリさせることからはじめよう。行きつけのサウナつき銭湯が開くのは15時半。ここでドカっと汗を出して、心も体もきれいになり、京成電車にのること数10分。これなら17時を少し回る頃には競馬場につけるはず。最低でも5レースくらいはしっかりと勝負できそうだ。

 しかし、家を出て、銭湯につく頃に気がついた、長袖2枚にウインドブレイカーを着ているのにぶるぶる震えてくる。気温が低いのは勿論だけど、吹きつける風が真冬のような冷たさ。とにかく、むちゃくちゃ寒い。船橋競馬場前の駅についた頃には少し後悔も混じってきた。しかし、引き返す訳にはいかない。昨日の続きをしなくては……。

 ついてすぐの6レースは見送って、7レースから買うことに。ナイターが始まったばかりのせいなのか、人はまばらでパドックはいいポジションで見ることができる。照明も明るくて、馬もきれいだ。これで条件は最高なはずなのだけど、黙って立っているとつま先の方から冷たくなってくる。徐々に体も震えてくるのだからとんでもない寒さだ。

 返し馬の間までを何とかスタンド内で過ごして、様子を窺ってから外へ。しかし、このスタンド2階がまたまた尋常じゃなく寒い。他に座っている人も2人くらい。各馬がキャンターに入るまで何とか耐えていたが、とても参考にできるほどじっくりとは見られずに馬券を購入。

 特に下調べをしている訳ではないのだから、これで当たったら奇跡だろう。当然のように馬券をはずし続けて、あっという間にメインの10レースになってしまった。

 またこの10レースが難解。これっという人気馬は存在しなくて、一番人気は後方から差を詰めてくるタイプ。信用できるようなできないような……しかし、心だけじゃなく、体も冷えてくると、儲けることよりも、とにかく、ひとつでも当てたくなってくる。

 名物、あんかけ焼きそばを食べながら暖を取り、相手を絞ろうと悩んでみたけれど、どれもこれもピンとこない。結局、差してきそうなのとある程度前で競馬しそうな2頭を選択。この馬連を2点で勝負したのだけれど……選んだ2頭はおろか、一番人気のその馬も3着に追い込むのがやっと。

 直線は目の前を通り過ぎる馬群を呆然と眺めて、もう自分に闘志もお金も残っていない事に気がついた。ハートビートナイター。確かに体はいやというほど震えたけれど、他のお客さんとは違って、まったく心は震えなかった。

 やはり競馬は難しい。思いつきで行って勝てるほど楽じゃない。それに勝負どころの桜花賞でしっかり儲けられなかった自分にツキもある訳がないじゃないか。引きずっちゃいけないんだ。

 この日の収穫といえば当社の営業部の大先輩と新聞売り場でいろいろ話をできたことくらい。それでも収穫があっただけ良かったか。とにかく、皐月賞はもう一度練り直して、パドックでもしっかり見極めて勝負しよう。冷静な分析と下調べ。そんな基本に立ち返らなければ。

 そう、船橋といえば今日はブチコとナナコのマリーンC。ここまで散々書いてきましたが、船橋競馬場のナイターは明るくて、パドックもレースも非常に見やすい。それほど気温も低くないはずで、じっくり楽しめる環境なはず。競馬場に出かけられる方は、是非、自分の分まで楽しんできてください。

美浦編集局 吉田幹太

吉田幹太(調教担当)
昭和45年12月30日生 宮城県出身 A型
道営から栗東勤務を経て、平成5年に美浦編集部へ転属。現在は南馬場の調教班として採時を担当、グリーンチャンネルパドック解説でお馴染み。道営のトラックマンの経験を持つスタッフは、専門紙業界全体を見渡しても現在では希少。JRA全競馬場はもとより、国内の競輪場、競艇場、オートレース場の多くを踏破。のみならずアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、フランス、イギリス、マレーシア、香港などの競馬場を渡り歩く、案外(?)国際派である。