良かったのは、天気だけじゃなかった(吉田幹太)

 10万を越す大観衆と初夏のような晴天。

 無理に盛り上げる必要もなく、第1レースでも自然とスタンドからは大歓声が沸いて出る。この感じは最初に現場で見たメリーナイスの時とちっとも変わらない。いよいよダービーだと、体に力が漲って、一瞬、足をつりそうになってしまいました。

 前日にしこたまやられて、数人で前夜祭をパーッとやった自分には肝心の現金が心もとない。場内の熱気と自分の燃える心に逆らいながら、必死に馬券窓口から距離を置き、何とかダービーの資金を減らさないように心がけては見たけれど、パドックを見て、返し馬を見て、オッズを見てしまうと心が大きく揺らいでしまう。しかも、買っていないレースに限って、いつもは流れに乗れないはずの馬がスムーズに競馬をしたりして……普段は前向きに見れるレースも、来たらどうしようとビビリながら見なければいけないのだから、心にも体にも良くありません。

 それでもいつもの半分くらいしか手を出さず、それなりに資金を持ったままダービーを迎えられたのは成長したあとなのかも。

 さて、そのダービー。皐月賞の時とはガラッと全体の雰囲気が変わって、ほんの短い期間でも精神的にも肉体的にも大きく成長するものだとあらためて感心しました。

 中でも皐月賞の1、2番人気だったサトノダイヤモンド、リオンディーズは違う馬のよう。数字は2頭ともマイナス4キロでしたが、前者は落ち着きだけでなく、ひとつひとつの動きに重厚感が出て、後者はやんちゃな部分をださず集中して歩けていました。

 他の馬たちも程度の差こそあれ、素晴らしい仕上がり。厩舎スタッフだけではなく、その馬に関わった人たちの1年の集大成といった雰囲気が伝わってくるのが、毎年、楽しくて仕方がありません。

 自分の本命はマカヒキ。馬体の良さは前記の2頭にまったく劣らず、こちらも皐月賞以上に研ぎ澄まされたような雰囲気で周回。迷わずここから入れると意を強くしたのですが、オッズを見ると相手は絞らざる得ない。特に自分は馬連よりもごく少数存在する枠連派なだけに、絞って買うことにこそ意味がある。

 パドックで抜群に見えた2頭のどちらかを本線にして、ディーマジェスティの1枠とスマートオーディン、マウントロブソンの居る5枠までしか抑えられない。

 どうしても、最後はオッズに左右されてしまう。枠の2-4 700円じゃ満足できず、結局はリオンディーズとの2-6 1310円に目がくらんで、本線にしてしまった。

 結果は皆さんご存知の通り。

 最後は素晴らしい追い比べになり、自分も体が前のめりになりましたが、おおよその配当が頭に浮かんで声が出そうで出ない。それでもゴール前でマカヒキがサッと出たことを確認すると、一年の仕事が無駄ではなかったような気がして喜びがこみ上げてきました。

 大儲けなんてしなくてもいい。競馬にかかわる人たちがみんな目指している大舞台。そこで本命にした馬が勝ち、懐が僅かでも増えたのだからこんなに幸せなことはない。

 そんな満足感と達観したような思いも、約1時間後の目黒記念の頃にはすっかり忘れてしまい、午前中に馬券を我慢していた反動が、ブワッと噴出してしまった。

 マークカードをビッシリ塗りたくって、走るように馬券売り場へ。

 ゴール前はまたも前のめりになりましたが、今度はあきらかに劣勢。一日に2度も競り勝つことはなく、少し増えたお金をまたまた少し減らしてしまいました。

 それはそれで反省しつつ、無事にダービーを終えることができて、夜にはおいしい食事と酒を飲みながらあれこれ振り返ることができた。本当にいいレースといい一日だった。

 来年も同じように。競馬を普通に楽しめる日が来ることを祈りながら、また、目の前の美浦所属馬からダービー馬が出ることも祈りながら。一年間、双眼鏡を覗き続けたいと思います。

美浦編集局 吉田幹太

吉田幹太(調教担当)
昭和45年12月30日生 宮城県出身 A型
道営から栗東勤務を経て、平成5年に美浦編集部へ転属。現在は南馬場の調教班として採時を担当、グリーンチャンネルパドック解説でお馴染み。道営のトラックマンの経験を持つスタッフは、専門紙業界全体を見渡しても現在では希少。JRA全競馬場はもとより、国内の競輪場、競艇場、オートレース場の多くを踏破。のみならずアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、フランス、イギリス、マレーシア、香港などの競馬場を渡り歩く、案外(?)国際派である。