銭湯にて(吉田幹太)

 自慢じゃないけど、貯えはまったくない。

 あればパーッと使って、なければ我慢する。そんな生活を続けて40も半ばになってしまった。

 お金がないときの楽しみは銭湯に行くことぐらいである。近くのスーパー銭湯は年に一回、安く売る回数券を買ってあるので、お金がなくても大丈夫。湯に浸かり、サウナに入り、水風呂に入って一休み。そんなことを2回も繰り返せば2時間くらいは過ごせる。十分な癒しにはなる。

 そんな癒しの空間で最近、少し気になったことがある。おそらく、10代後半から20代前半の若い人たちが、大抵、2人以上の集団で動いていること。こんなことが気になるのは自分が年を取った証拠かもしれない。しかし、どこに行くのも一緒だったりするからついつい気になってしまう。

 勿論、人がどう楽しもうが勝手。勝手だけれど、様子を窺っているとひとりで行動することに恐れを感じているようにも見えてしまう。もし、本当にそうなのだとしたら、ちょっと心配だ。

 何より長年してきた馬券を買う行為は、人と違う行動や意見を持つことが非常に大事な要素になる。大勢の意見に同調して、みんなと同じ馬を買うことの危うさは、ここまで費やした少しの時間と大量の現金が教えてくれた。

 確かに、皆が喜んでいる横で、ひとりハズレ馬券を握りしめている寂しさは言葉にできないほど切ない。

 26年前の有馬記念。オグリキャップの引退レースはある意味、そんなレースのひとつだったかもしれない。今で言う3歳世代が強いと信じ込み、メジロライアンとホワイトストーンの枠連3-7に、初めて貰ったボーナスをほとんどはたいてしまった。直線でオグリキャップが抜け出してきた時はまさかと思い、ゴール前は呆然と眺めているだけで……。

 京都競馬場でも起こったオグリコール。そんな熱狂の中で奥歯をかみ締めながら耐えるしかなかった。みんなが喜んでる中で、ひとり取り残されたような感じだった。

 ただ、辛い思いを覚悟しながら、姿勢を貫くことでそれなりにいい思いをすることもあった。何より、競馬としっかり向き合い、自分なりの尺度や、分析もできるようになったのは、辛い経験を恐れなかったからだとつくづく思う。

 ちょっと大げさになってしまったけれど、人に頼らずにひとりでいろいろ判断することはとても大事で、それを身につけるのに競馬はいい教材だと思う。

 湯船に浸かり、目の前の若い人たちを見ながらそんなことをふと思った。銭湯に来るぐらいなら、もっと競馬場にも行けばいいのに。できれば、仲間とではなく、ひとりぼっちで……。

 はたして、そんな自分は前述したように貯えがなくて、いまだに独り身。高血圧などの持病もあって、肥満体。いわゆる完全な負け組だ。

 偉そうなことを言ってもこれじゃ若者にバカにされるだけかな。

 もう一回、真剣に人生を見つめ直さなければ。体を引き締め、少しは貯えも作り、まずは自分改革から。前向きに頑張ります。

美浦編集局 吉田幹太

吉田幹太(調教担当)
昭和45年12月30日生 宮城県出身 A型
道営から栗東勤務を経て、平成5年に美浦編集部へ転属。現在は南馬場の調教班として採時を担当、グリーンチャンネルパドック解説でお馴染み。道営のトラックマンの経験を持つスタッフは、専門紙業界全体を見渡しても現在では希少。JRA全競馬場はもとより、国内の競輪場、競艇場、オートレース場の多くを踏破。のみならずアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、フランス、イギリス、マレーシア、香港などの競馬場を渡り歩く、案外(?)国際派である。