坂路開場 関東馬大攻勢?(吉田幹太)

 4か月ぶりに美浦の坂路が開場した。

 高低差が18mから33mに大幅増。ゴールの位置も50m手前になり、最後まで追ってもちゃんと減速できるようになった。

 数字だけなら栗東の坂路より距離も高低差もやや上になる。

 実際に歩いてみると助走の部分がほとんどなく、いきなり登りになっている。1200mをかけて33m登る。牧場を含めた日本の坂路のおおよそ水準級の傾斜になるらしい。

 見学会の日は曇っていてやや蒸し暑い気候。とぼとぼ歩いて登っても、地上に出る頃にはびっしりと汗が出るほどの運動量。

 馬と肥満体の自分を比較するわけにはいかないが、キャンターで登るだけでも十分な負荷になりそうな印象を受けた。

 東西の勢力図が大きく変わるかどうかは何とも言えない。しかし、トップレベルは別として、関東馬の全体的な底上げにつながるのは間違いないような気がする。

 あとはこれをどう馬券に生かすか。なのだけど、自分の担当は南馬場。とりあえずは坂路の担当者に様子を聞いて、ちょこっとずつ馬券を買って、徐々に判断していきたいとは思っております。

 改めて感じるのは我々の強みが何かということ。

 最近、追い切りは映像で確認することもかなり多くなった。細かいところなどは追い切り全体を見ていると見逃すこともあるだけに、これはこれで非常に役に立つ。ただ、本当にいい判断ができているのは生で見た印象のことが多いような気がする。

 手前、口向き、バランスどは映像の方が的確に判断できるのかもしれないが、スピード感や勢いなどは映像だけでは判断しにくい。生で見た印象は何事にも代えがたく、プラス映像を見ていい判断につながるのではないかと思う。

 この夏、初めて新潟競馬場に2週間滞在して調教を見る機会があった。

 自分がいた2週間に滞在していた頭数は10頭から30頭。

 南ウッドコースの水曜日には600頭以上も追い切ることがあるのだから、この頭数なら映像の助けがなくても1頭1頭、穴が開くほど見ることができる。

 酷暑の影響もあってかこの滞在組が今年は良く走った。必ずしも馬券につなげられたかどうかは別として、大筋で判断を誤ることはなかったのではないかと思っている。

 このクオリティを普段のウッドコースでも発揮できればいいのだろうけど、さすがに600頭すべてをじっくり見るのは物理的に不可能。それでも瞬間的な迫力と切れ味を少しでも見れるのはやはり強みであり、予想する上でも最大の武器になる。

 成績を比較して考え、近走の参考レースをVTRで見る。この作業は時間が許せば誰にでもできる行為で、自分よりもちゃんと判断できるファンの方も多くいるような気がする。

 ここに調教で見た印象をスパイスとして効かせることができるのは自分の強み。冴えさえあれば独自のいい予想につながるのではないかと思っている。

 先週の日曜日に千秋楽を迎えた大相撲。

 大相撲の魅力も生で見ることにあるような気がする。早い時間に場所入りして、三段目あたりから見ていると体つき、仕切る姿からひと味違う若手が見つかることがたまにある。

 野球もそうかもしれない。プロはプロで魅力的だが、学生野球などは現場で見て、試合前の数分の練習から走る姿や身のこなしなどで目立つ選手がいる。

 こういう力士や選手を見つけると現場に行けなくても、しばらくは映像や成績を見るだけでも楽しめることになる。

 これだけ情報化の進んだ現代でやや時代遅れな意見かもしれない。それでも少なくても自分は、この感覚を大事に仕事に遊びに精を出したいと思う。

 ということで、今週の注目はやはり坂路で追い切った馬になるであろうか。

 いきなり結果は出ないかもしれないが、過去の経験則から行くとあからさまに結果が出ることも良くある。

 今週だけではなく、この秋は坂路担当者の言うことをたまには素直に聞いて、いい馬券をものにしなくては。

 そして来週からはゲートのEコースも開場。

 いよいよ関東馬の大攻勢が始まるはずです。

吉田幹太(調教担当)
昭和45年12月30日生 宮城県出身 A型
道営から栗東勤務を経て、平成5年に美浦編集部へ転属。現在は南馬場の調教班として採時を担当、グリーンチャンネルパドック解説でお馴染み。道営のトラックマンの経験を持つスタッフは、専門紙業界全体を見渡しても現在では希少。JRA全競馬場はもとより、国内の競輪場、競艇場、オートレース場の多くを踏破。のみならずアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、フランス、イギリス、マレーシア、香港などの競馬場を渡り歩く、案外(?)国際派である。