さまよう日本語(山田理子)

 ちょっと前。往年の名馬サッカーボーイと秋華賞で果敢にハナを切ったメモリアルイヤーを表現するにあたり、立て続けに「快足馬」(かいそくば)という言葉を使う機会があった。もしや、と思い、使い慣れたgooにアクセスして検索すると…やはり。お決まり文句の「「快速馬」でも検索してみてください」の文字が表れ、それに導かれ、クリックしてみると「快足馬」約4500件に対して、「快速馬」約452,000件。ヒット数に10倍以上もの差があった。

 その昔、私が新入社員の頃、「快速馬」と書けば、「電車とちゃうんやから!」と諸先輩の失笑を買ったものだ。でも、今は違うようで若手TMも???の様子。広辞苑第四版によれば、快足……足がはやいこと。走りかたのはやいこと。──のランナー。快速……すばらしくはやいこと。──船。とあり、「足」は人や動物の場合に、「速」は電車や船などの機械系の場合に用いるのが本当でないかと思う(違う?)のだが、これだけ「快速馬」が流布してしまうと、自分は使わないにしても、もはや抗いがたいものがある。
 思うに、インターネットが普及で急速に言葉の誤用が進んでいるのではないだろうか。誰でも気軽にアウトプットできるようになり、公式のものでなければ、表現も自由気まま。一度出版すれば訂正のきかない紙文化とは違い、誤字脱字があっても何度でも削除・更新が可能であり、また、ツイッターなどはフォロー数が多ければ、情報伝達のスピードに押されて瞬く間に文章が流されていく。言われて久しい「活字離れ」は出版物に限ったことで、人々は日々パソコン、スマートフォン、携帯を片時も離さず、活字を通して大量の情報を得ている。ひとつ問題なのは出版物に比べて、インターネットでは言葉の誤用に触れる機会が圧倒的に多いこと。幼い頃からネットによる情報収集をメインとしてきた世代が多くなれば、日本語の誤用があった場合にはそれが瞬く間に広がって市民権を得る可能性があり、今後「言葉の変化」が急速に進みそうだ。

 正直に。私が完全に間違って覚えていた例をいくつか。
 姑息(こそく)……一時のまにあわせ。その場のがれ。──な手段。(ズルいとか、わるがしこい、とか正統ではないみたいな意味と思ってた……)
 ジンクス……縁起の悪いもの。また、広く、因縁があるように思われる事柄。──を破る。(縁起担ぎ、みたいないい意味でも使うと思っていた……)。
 「二の足を踏む」と「二の舞を演じる」がごっちゃになって×「二の舞を踏む」と言っていた気がするし、「怒り心頭に発する」も×「怒り心頭に達する」と聞き違えていた気もする。もっと身近な会話から例を挙げれば、2年前に創部した我が羽球部で「バトミントン」とついつい口走れば、経験者である部員の西村TMには「バドミントン・badminton」です!と素早く訂正が入り、これも聞き違いからくる間違った日本語。
 探せばキリがないだろう。

 「情けは人の為ならず」の誤用が広く浸透した例はあまりに有名であり、「誤用」との付き合い方は難しい。競馬関連でいえば、(ハミ・力を)抜いて走る、(ゲートから馬を)出して行く(=促してと行くの意と思われる)など目的語をもたない他動詞が多く使われるし、ポジションを表す「前め」も活字になり始めた当初は気になったものだが、使う人が多くなれば、聞き慣れ、違和感もなくなってしまう。どこまで認めるか、そのラインをどこで区切るかにいつも頭を悩ませ、答えは出ない。ただ、元来の意味を知っておくべきだという意識だけは持っている。

 情けないほどボキャ貧の私。読めない熟語、意味を誤解していた、読めるし意味も分かるが自分では使えない、なんてことはしょっちゅうで、こんなのが後輩指導にあたってもいいのかと自問自答の日々を送っている。でも、後輩くんたち、ギャンブルしている人で「獲らぬ狸の皮算用」を知らない人はおらんぞ~。語彙を増やさなあかんよ、お互いに!ということで、私は今週の週始め、机の後ろの棚に広辞苑、ことわざ辞典、類義語辞典、英語辞典、フランス語辞典をずらり並べておきました。

栗東編集局 山田理子