障害未勝利戦の大きな1勝(山田理子)

 7月19日の阪神競馬第1R障害未勝利戦でマサハヤドリーム(森一馬騎手騎乗)が大差勝ちした。平地6勝馬で前走3着、単勝2.7倍の1番人気とあれば、大勝でもそう大きな話題とならないが、いたく感動し、記憶に残る1勝となった。馬はこれほどに変わるのか。先週から3週間、レースが組まれていないこの時期に障害未勝利戦の魅力を改めてお伝えできればと思う。

 マサハヤドリーム(セン8歳、父メイショウサムソン、母ランペイア、母の父アグネスタキオン)は今年2月に障害転向。平地ではオープン特別を含めて6勝を挙げており、森一Jによれば「身体能力が高く、体の使い方がうまい。飛越自体も上手」とポテンシャルの高さは明らかだった。ただ、平地戦でも調教でも力み過ぎる気性がどうにもネック。ジョッキーも手を焼き、8歳という年齢を考えても長年にわたって身についた癖を修正するのは容易なことではない。

 案の定、障害デビュー戦で行きたがった。そもそもの脚力があり、飛越もうまいので2着に来たが、上がり3Fは41秒3。数字から推察すれば、終いに脚を温存できていたとは言い難い。慣れを見込んだ2戦目の中京戦でもやはり力が入った走りで、途中でハナに立ったものの最後は脚が上がって4着。放牧を挟み、ひと息入れて臨んだ新潟戦では更に状況は良くなく、輸送で体を22K減らし、パドックでもテンションが高くてレース中の気負いはこれまで以上。休み明けで息ができていなかったこともあり、13着の大敗を喫してしまった。1番人気で4着、2番人気で13着に敗れて嫌な流れ。このまま、制御の利かない馬で終わる可能性はあっただろう。いやむしろそういうケースは多いのではないか。しかし、次走の阪神戦で“兆し”を見せたのだ。中5週で、放牧には出さず厩舎に馬を置いての調整。新潟遠征で減っていた体は回復し、好位で前に馬を置いた立ち回り。力みはあっても抑えが利かないほどではなく、上がり3Fは初めて40秒割れ。直線伸び負けての3着だが、終盤にいくらかでも力みがとれる時間ができ、競馬の形になったのだ。「調教では少しずつ落ち着きが出てきたように、徐々に結びついてきている」とはレース後の騎手の談。そのあとの調教では一段と収まりがつき、稽古でも実戦でも少しずつ「抜ける時間」が長くなったことが分かる。力が違うとばかりに後続をち切った7月19日の阪神戦では「タスキから抜いて走れていた」とのこと。「攻めでもいろいろ試したことで徐々に落ち着くようになってきた」、「(前に馬を置いて)やりたい立ち回りはできた」の鞍上の言葉には、試行錯誤しながら丁寧に毎日の調教を積み上げた思いが凝縮されている。たまたまだが、今の彼のお手馬に力む馬が多い。「どんな馬でも勉強になるのですが、今は集中的に折り合いについて考える機会があり、とても勉強になっています」という。マサハヤドリームは障害馬としては駆け出しの8歳馬。真摯に馬と向き合う新鋭若手ジョッキーに導かれ、このあとどう変化していくのか興味は尽きない。次走は2回小倉1週目の平場のオープンに出走予定。

栗東編集局 山田理子

山田理子(関西調教・編集担当)
障害戦好き。中間の練習、レースをもっと仔細に観察し、ジョッキーへの取材もして、障害戦の魅力をお伝えできればと思います。