障害試験の時計は馬券検討に使えるか(坂井直樹)

 こんにちは、今年も1月頭から小倉競馬場に詰めております、栗東の坂井です。

 一昨年から行われるようになった冬の小倉の障害戦もすっかり定着しましたね。競馬に使う馬のほとんどは前日や前々日に小倉でスクーリングを済ましてくれます(様子は2年前のこちらのエントリをご覧ください)。本番と同じ障害を飛越していくわけですから、これほど参考になるものはありません。予想する身としてはありがたい話です。ただこの期間に障害試験を見られないのは、それはそれで痛いものです。練習の経過もまったく見られません。その点においては、読者の皆様と何ら変わりありません。

 初障害の馬とどうつき合うかは、障害戦を予想するうえでは大きなテーマ。それについては以前、弊社元TM山田理子さんが書かれた「初障害で走るのはどんな馬ですか」にもある通りですが、それでもやはり無視して通るわけにはいきません。推理の手がかりのひとつが時計で、「栗東は100秒、美浦は110秒を切れば馬券になる」などと言われたりしますが、実際どのくらい参考になるものなのでしょう。

 私の手元にストックしてある範囲、2020年以降の障害試験のタイム(弊社採時)と障害初戦の成績にどれくらい関連があるのか、あるいはないのか、調べてみました。対象は、2020年以降に栗東で障害試験を受けた馬のうち、受験時に障害戦出走経験がなかった馬の合格したときの時計と、初めて障害戦に出走した時の着順。先週の土日2鞍までで、頭数は395頭でした。まずは総成績。

◎総成績(19.27.20.329) 勝率4.8%、連対率11.6%

 同期間、初障害の馬を含めた2020年以降の障害未勝利戦の勝ち馬率は8.5%ですから、勝率は実質的にはその半分程度といったところでしょうか。割引は間違いなく必要でしょう。ただそれでもゼロではないわけです。さあ、数字に手がかりはあるでしょうか。

◎試験合格タイム平均
 1着馬=99秒5(最速=94秒1、最遅=106秒2)
 2着馬=101秒1(95秒7、105秒9)
 3着馬=100秒0(96秒0、106秒3)
 着外馬=100秒8(94秒3、107秒8)

 勝ち馬の試験タイムの平均がかろうじて100秒を切りましたが、明らかな差はない印象を受けます。何しろ、3着以下の平均が2着馬のそれより速いですからね。ただ冒頭で触れた「栗東で100秒未満」は、なんとなくそうかもしれない、という感じにはなってきました。では、試験の時計の側から成績を見てみましょう。

◎タイム別成績
 100秒未満=(12.11.10.129) 勝率7.4%、連対率14.2%
 100秒以上=(7.16.10.200) 勝率3.0%、連対率9.9%

 100秒以上要した馬が明らかにマイナスという感じはしませんが、速い方がどうやらいいらしいというのは間違いなさそうです。もう少し細かく見てみましょう。

 98秒未満
 (6.3.3.34) 勝率13.0%、連対率19.6%
 98秒台
 (5.4.2.47) 勝率8.6%、連対率15.5%
 99秒台
 (1.4.3.48) 勝率1.8%、連対率8.9%
 100秒台
 (3.2.6.51) 勝率4.8%、連対率8.1%
 101~102秒台
 (1.6.3.89) 勝率1.0%、連対率7.1%
 103秒以上
 (3.8.2.60) 勝率4.1%、連対率15.1%

 98秒を切った馬の成績が格段にいいのがお分かりいただけるかと思います。98秒台でも勝率は初障害全体の平均の倍近く。99秒台の勝率がガクンと下がるのは母数やデータの振れ幅の問題もあるとは思いますが、102秒台までは、時計が速いほどきれいに連対率が上がる傾向にあるといっていいでしょう。

 103秒を超える時計で突然成績に反動が出る点をどう捉えたものか悩ましいですが、多分に好意的に捉えた場合、時計が速い馬は「淀みなく飛んでいる(可能性が高い)」、極端に時計が遅い馬は「折り合いがついている(可能性が高い)」とすれば納得できなくはないですね。飛越のジャッジは、弊社当日版や各種WEBコンテンツの調教短評を参考にしていただきたいところです。ちなみに、回収率は99秒未満の組で単勝107%・複勝98%、103秒以上の組で108%・81%なので、どちらか一方が極端に得という傾向は見られませんでした。

 「障害戦は時計じゃないよ」を心に刻んで接している私ですが、こういう結果が出ると認めないわけにもいきません。というわけで、「栗東の障害試験の時計は99秒を切ってきたら気にしておこう」を今回の調査の結論として、今後は頭の片隅にちょっとだけ置いておこうと思います。

栗東編集局 坂井直樹

坂井直樹(調教・編集担当)
昭和56年10月31日生 福岡県出身 O型
今回は初障害での成績のみを調べましたが「初戦負けからの2走目」を試験タイムで分けて見ると、99秒未満の組は(8.9.5.49)で勝率11.3%・連対率23.9%、103秒以上の組は(2.6.9.28)で勝率4.4%・連対率17.8%と出ました。長い目で見ればやはり「試験99秒未満の組を追いかけましょう」となるようです。