教えることは学ぶこと(山田理子)

 4月。わが社にもトラックマンを目指す新人が4人入社してきた。平均年齢がグッと下がって若返り、にわかに活気づく編集部。幼少の頃から入学、新学期、クラス替えなどを毎年経験したから感覚が体にインプットされているのだろうか、春の陽気に包まれるこの季節は、社会人になって20年近くなる今でも気持ちが新たになる。
 新人君たちは初々しく、発する言葉や行動のひとつひとつにこちらはふと笑みがこぼれてしまう。電話の応対、コピーやファックス送信の雑用はもちろん、本業である調教の時計採り、取材、原稿書きなど覚えなければならないことは山積みだ。巨大な山を前にして途方に暮れ、早起きに体が慣れずに毎日眠くて仕方なかった自分自身の入社当時を思い出し、心からエールを送っている。新人君とは付き合いが浅くまだ人となりは分からないので、彼らの話はいずれまた。今回は新人君に文章の書き方を教えていた後輩TMから学んだことを。

 週刊誌の特別登録の記事について。後輩TMの説明はこうだった。「俺も原稿を書き始めた頃にやってたんだけど、1頭の馬について書くときに、まず、強調点と減点材料を箇条書きに挙げてみるんだよ。で、それをしてから、今回いいか悪いか、(馬券的に)いるかいらんかを方向づけて、その結論に向かって文章を進めていくの」

 おー、それいい!教えるのうまいわ、分かりやすいわ~。わが編集部は「全員で全員を教える」システムなので当然ながら私にも担当があり、早速このアイディアをいただくことに。週半ばから苦闘していた新人Nが締め切り間際の日曜正午前に提出してきた週刊誌用の原稿を家に持ち帰り、坂路調教を終えた休憩時間のあいだに赤ペン先生さながらビッシリとメモ。眠いけどね……と胸のうちでぼやきながらも、1頭の馬について今回の買い材料と心配点を連ねていくと、これが面白かった。お題は今週の京都日曜準メインの上賀茂S。

エーシンリボルバー
【強調点】
・現級で(2)(3)(3)着の実績。今回と同じ京都1800mで(2)着あり。
・大型馬だから休み明けは走らないけど、これまでの4勝すべてが中2週以内(今回中1週)。今回と同じ叩き3走目のケースで(2)(2)(1)着。
・前走でもまだ太かったから上積みあり。
【心配点】
・抜け出してソラを使う面がある。
・ハンデ差がある。

ロングロウ
【強調点】
・スローペースに持ち込めたとはいえ、前走が強い勝ちっぷり。
・脚部不安による長期休養があったが復帰後の内容が安定。
・数字や成績から説明しづらいけど、馬っぷりや攻めの動きから昇級に泣かないポテンシャルがある。
・京都コースにも良績あり。
【心配点】
・前走は返し馬で引っ掛かりそうな雰囲気。内枠でハナに行けたから折り合えたけど、昇級して、仮に後手に回るケースになったときにスムーズなレースができるかどうか。 

タガノリベラノ
【強調点】
・前走が楽な手応えから後続を完封する着差以上の完勝。
・牝馬限定の500万をなかなか勝てなかったのに、休養後に牡馬相手に2連勝と本格化を思わせる。
・京都コースで3勝の実績。1分51秒台の持ち時計がある。
・ハンデが軽い。
【心配点】
・昇級で相手は強化する。

 …と、3頭ほど例にとるとこんなふう。定量戦ならエーシンリボルバーでOKと思うが、ハンデ戦ならタガノリベラノも怖いかな……と頭の中で段々と上賀茂Sの勢力図がまとまってくる。

 レース内容、調教、成績、血統など馬へのアプローチはいろいろだが、大事なのは先入観や固定観念を持たず時間をかけてじっくりと1頭1頭と向き合い、長いスパンでできるだけ深くかかわること。そうすれば、ほんの少しでも本質に近づけ、直近の着順に惑わされることなく印を打てるし、馬券も買うことができる。教育係をいい機会に新人君たちとともに丁寧に馬にかかわって、巨大な山の頂に一歩でも近づけたらと思います。

栗東編集局 山田理子