惹かれる“人種”達(和田章郎)

 年末年始の日程が慌ただしかったことで、例年以上に落ち着いて毎日を過ごすことができなかった感じ。チェックすべきテレビ番組や購入済みの書籍に手をつける暇もなく、1月が過ぎ去ろうとしています。まったく、毎度のことながら、月日の経つのは早いもので。
 そんな1月、毎年ひと段落つくのはJRA賞の授賞式が終わってから。昨年の競馬を思い出しながら、「さあ新しい一年へ」と、ある意味、ここですっかり気持ちがリセットされるからでしょうか。

 ということで、授賞式のあったまさにその日に放送されたNHK総合の『プロフェッショナル仕事の流儀』。これも録画して観たのですが、期待通りに興味深い内容でした。
 取り上げられたプロフェッショナルは“エディさん”。
 筆者の世代か、それより上の世代のスポーツ好きにとっては、“エディさん”と言えばボクシングの故エディ・タウンゼント氏を思い浮かべるんじゃないかと思います。沢木耕太郎氏の『一瞬の夏』や、後藤正治氏の『遠いリング』で知られる、何人もの世界チャンピオンを育てた伝説の名トレーナーです。

 が、今回『プロフェッショナル』で取り上げられた“エディさん”は、そう、現ラグビー日本代表のヘッドコーチであるエディー・ジョーンズ氏でした。
 こちらのエディさん。一昨年のちょうど今頃、当コラム(東西編集局リレーコラム『ただ“憧れ”だけでなく』)でちょっとだけ触れたことがありましたが、そんなことはさておき、先のエディさんと同じ名前というだけでなく、“外国人のスポーツ指導者”という点で共通しています(それも“優れた”が頭につくわけですが)。

 その番組内容。戦術面の解説がやや少なめで、もしかすると競技としてのラグビーファンには物足りない部分があったのかもしれません。では、どこに焦点が当てられていたかというと、主に選手の発掘、育成といった部分。要するに彼のユニークな“指導方法”について、でした。

 そのほんの一部―。
 戦う組織を作り上げるために意識することが、“選手達をハッピーにしない”、“選手達には失望して欲しい”、“どんどんミスをさせる”等々。
 特に一番最後の『どんどんミスをさせる』については、「日本のトレーニング法で一番の間違いは“ミスをしないよう”に訓練させていること」と言い切ったのが印象的でした。更にその際、「ミスしていい」と言い切ったことも。

 “育成”とか“指導”なんて、すぐにできることじゃありませんからねえ。ひとつひとつの積み重ね、繰り返しの経験でもって、少しずつ成長していくということでしょう。彼はラグビーのコーチというより、教育者の雰囲気があるのですが、彼の指導過程が、今後の日本ラグビーにはたしてどうつながっていくのか。
 2020年の東京オリンピックの前年、日本でワールドカップが開催されるラグビーです。好き嫌いはさておいて、注目していいんじゃないでしょうか。

 ところで、“指導者”とは厳密には違うのかもしれませんが、“指揮官”として年明け早々、箱根駅伝で青山学院大学を総合優勝に導いた原晋監督が話題になりました。彼も今回の快挙まで、11年の歳月をかけたそうです。いやむしろ、11年なら早い、と考えていいくらいかな。とにかく、組織作りは一朝一夕にはいかないということでしょう。

 で、ここにきて改めて難しいだろうな、と思わされるのは、ひとつうまくいったからといって、ずっと同じ指導方法でいいのかどうか、ということ。兄弟や姉妹といった関係でも個々それぞれで悩まされるのに、集団とか組織なんて、様々な個性の集合体。少しでも状況が変われば、すべてを見直す必要も生じそうな気がします。
 これ、浅はかな見識に過ぎないのかもしれませんが、いずれにしろ機械ではない人間が絡むことですからね。単純には収まることではないはずです。

 でも、だからこそ我々凡庸な一般人は、指導者、指揮官、リーダーといった“人種”達に惹かれてしまうのでしょう。
 野球だのサッカーだの、いや、スポーツに限りませんか。政治、経済といった世の中全般、また身近な企業体についても、知らず知らずのうちに、彼らを中心にいろいろな局面を理解しようとし、判断し、結論づける傾向がありますもんね。
 そういう意味では、もっと真剣に掘り下げて考えるべきことかもしれません。どうすれば?『求められるリーダー像』なんてタイトルの書籍を読み漁りますか?
 いやいやいや、だからそんなに単純ではありませんって。

 やはり焦らずに、歴史上の人物などからひとつひとつ学び取るべきでしょうか。これだと何十年もかかってしまいそう。ですが、やる意味はきっとあるに違いありません。

美浦編集局 和田章郎

和田章郎(編集担当)
昭和36年8月2日生 福岡県出身 AB型
1986年入社。編集部勤務ながら現場優先、実践主義。競馬こそ究極のエンターテインメントと捉え、他の文化、スポーツ全般にも造詣を深めずして真に競馬を理解することはできない、をモットーに日々感性を磨くことに腐心。そして固定観念に縛られないよう、様々な要素を織り交ぜつつ競馬と向き合い、理想と予想の境界線を超えられればと奮闘中だが、なかなかままならない現状。